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“どこに就職するか”ではなく “どう生きるか”を考えるきっかけを作りたい

 2008年の入社以来、一貫してリクナビ企画開発に携わってきた大西哲朗。会員数約66万人の学生に使ってもらう“ナビゲーションを開発する”、その責任の重さに気づいたのは、システム開発部門からプロデュース部門に異動になった入社4年目のときでした。「どう働くかとは、どう生きるかということ。その選択肢を提案したい」。そう話す大西に、リクナビ開発に懸ける思いを聞きました。

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大西 哲朗(おおにし てつろう)

 2008年新卒入社。大学院では情報工学を専攻し、人工知能や機械学習を研究。就職活動時、「人」に対する興味はまったくなかったが、研究の延長線上で「大きいシステムを創りたい」、「たくさんの人に影響を与えるシステムを手がけたい」と思い、リクルートへ入社。実際、入社後しばらく大規模システムの開発に携わってきた。4年目の時に、開発から企画部門へと異動。大きな転機が訪れる。

 

学生から届いた1通のメールで、リクナビ開発への覚悟が芽生えた

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 社会人9年のキャリアをすべてリクナビ開発に費やしてきましたが、学生時代の私にとって“就職”は、積極的な選択肢ではありませんでした。大学院で情報工学や機械学習を研究し、博士課程に進もうか迷ったものの、周りの先輩や教授のあまりの優秀さに「この世界では勝負にならない」と意欲減退。他にやりたいこともなかったので、研究系の道に進むのは諦め、文系就職しようと考えました。そこで、「たくさんの人に影響を与えるシステムを手がけたい」「自社商品を持っており、比較的自由に働けそうな会社」という観点で企業を絞り、それらが当てはまったリクルートに入社を決めました。

 入社すると、システム開発部門に配属になり、リクナビの正確な稼働を支える大規模システムの開発を担当。思い描くスペックを形にしていくことに、面白さがありました。転機は、リクナビの企画部門へ異動した入社4年目の1月に訪れます。それまで、「決められたことを確実にやりきる仕事」が自分に合っていると思っていたので、「企画を考えて、新たな仕掛けを作る」プロデュース業には、及び腰でした。何をすればいいのかわからない、本当はシステム開発をやっていたかった…そんな後ろ向きだった自分に、仕事への姿勢を問われる出来事が起こります。日頃からリクナビの「お問い合わせ」に来るメールを読んでいるのですが、ある日、

「あなたたちのせいで、人生がめちゃくちゃになった」

という、短く詳細情報のない匿名メールを見つけたのです。ドキッとさせられました。対応のしようがない。それでも、就職直前の時期にやり場のない思いをここにぶつけたのだという、文字からにじみ出るひっ迫感にはすごいものがありました。それまで、リクナビをシステム側から支えてきたものの、その先にいる一人ひとりの学生をここまでのレベルでイメージすることはできていませんでした。これまでの対応がまざまざとよみがえり、自分の覚悟の足りなさと認識の甘さに気づかされました。一度、システムの不備によって企業からのメール配信が1時間遅れてしまうことがあったのですが、最終的に届いたから大丈夫だと思ってしまっていたこともありました。でも学生からすれば、「この時間に来るはずの内定通知が届かない」ことで、別の内定企業に進路を変えてしまうかもしれないほど、非常に重い意味を持ちます。その想像力がなかった自分が、

「このサイトが提供する情報は、学生の人生を左右する力を持ってしまっている」

と初めて痛感したのです。それまでも真剣に取り組んでいたつもりでしたが、もっと深いレベルで「一人ひとりの活用シーンを鮮明に描きながら、本気で使ってくれる人を上回るぐらいの真剣さで取り組まなければならない」と、痛烈な覚悟が決まった瞬間でした。

 

求人情報は鮮度と開示量が大事。その価値観を広げたい

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 リクナビのユーザー(学生)向け改善テーマは、おもに3つあります。画面(インターフェイス)の改善、メールやメッセージ通知機能の改善、そして、レコメンド機能(企業情報の掲出方法にかかる仕組)の改善です。異動して最初の1~2年に着手したのは、レコメンド機能の改善でした。ここで、院で学んだ機械学習の知識が思いがけず生きることになります。それまでのレコメンドは、「編集部ピックアップ」など、リクナビ編集部から全学生に同じ切り口の情報を提示していました。でも、例えば「女性がイキイキ働ける企業」という女性管理職比率の高い企業を集めた特集を届けたとしても、受け取り手の中には「育休がとりやすい」ことや、「保育所支援がある」ことを期待する学生もたくさんいます。すると「自分に必要のない情報を出してくるサイト」として、むしろ嫌がられてしまうのです。

 そこで、学生一人ひとりの志向や特性を行動ログから分析し、その人に合った企業情報を提示できるように改善していきました。個別の行動に基づいたレコメンド機能を改善することで、提示される情報と知りたい情報とのマッチ度が向上。特集からアクション(応募や説明会予約)につながる率は昨対比で数倍なるなど、一定の効果をあげることができました。「レコメンドがすべて」と意気込んで開発していましたが、年間約200人の学生に会い、一人ひとり様々な背景を持った生の声を聞くたびに、

「届けるべき情報がまだまだ足りていない」

と強く感じるようになりました。たしかに、機能面の改善に注力してきたものの、肝心の企業情報・採用情報自体の充実という点については、まだまだ改善の余地があると思いました。レコメンド機能が革新されても、そもそもの情報が薄ければ意味がありません。そこで、リクナビは、情報開示に積極的な企業を応援するサイトであろうと「2週間以内に情報を更新した企業を検索上位に掲載する」など試験的な動きを導入。2015年10月の若者雇用促進法の施行にも鑑み、「残業の有無」や「休日出勤の程度」などに加え、給与に関する詳細情報も、どんどん盛り込もうとしています。情報をしっかり提供している企業をピックアップすることで、まだまだ改善の余地のある「求人情報」の情報開示量を増やし、鮮度の高いものへと変えていきたいと思っています。

  

 

1通1通エントリーシートにアドバイスを書いた

その積み重ねが、学生からの信頼につながった

 

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 機能面の改善以外に、人と人とのコミュニケーションを深める大切さも実感しています。忘れられない施策は、リクナビ2016での「エントリーシートアドバイスサービス」です。リクナビ2016では、「もっともっと学生に愛されるサイトにするにはどうすればいいのか」という検討を繰り返していました。リクナビ2016時に考え抜いた末に出したアイデアが、学生3万人分のエントリーシートに、リクルートキャリアの社員が総出でアドバイスをしてフィードバックする、という大掛かりなものでした。これはあくまでもアドバイスで、添削ではありません。エントリーシートに込められた学生のキラリと光る部分を見つけ出し、それがより伝わるようにするにはどうすればよいのかをアドバイスさせていただくものです。ただ、社員一人ひとりのアドバイス内容もさまざまなので、私がすべての校閲責任者として、1日何百ものエントリーシートをチェック。約3カ月かけて、約3万人の学生一人ひとりに返送しました。全社員の時間を使った施策なので、コスト・パフォーマンスが高いとはいえません。でも、その後出会った学生に「あんな風に褒めていただいてありがとうございました」という言葉をもらったのです。「自分には何も取り柄がないと思っていたけど、いいところもあるんだと、少しだけ自信がつきました」。その言葉は、本当にうれしくて、地道な行動が一人の学生の背中を押せたという実感に震えました。社員にとっては、カスタマーである学生に対峙する機会となり、どんな情報を届けるべきかを考え直すきっかけになったのではないかと思っています。

 ここにも、リクナビがずっと変わらずに大切にしてきている考え方がベースにあります。それは、「人の可能性」ということです。人には一人ひとりにその人ならではの強みとなるかけがえのない「持ち味」があり、その「持ち味」が活かされる環境にあるとき、人の可能性は最大化されるというもの。就職活動における会社選びにもこの考え方はそのまま当てはまると考えています。リクナビのユーザーは毎年入れ替わるので、それまでの広告投資で培った資産も、施策もすべてゼロリセットされます。足りないものは何か、求められているものは何かを常にとらえ、毎年チャレンジできる面白さとむずかしさが共存しています。企画開発のヒントとなるのは、第一に、学生たちの生の声。次に僕が参考にしているのは、地元の友達です。同世代の仲間は、地元で就職した人、上京した人、Uターンした人など様々な道を進んでいます。なかには、本や新聞など“文字”を読む習慣がほとんどない友人もいるので、彼らがリクナビの情報を読もうとするだろうかと考えても、そのイメージがわきません。そこで、「情報を届ける」ことが目的ならば、その手段は何でもいいはずだと、文章ではなくマンガにすることにしました。すると、PV数は急上昇。「情報を出していれば、読者が読み解いてくれるだろう」という一方的な考えでは、学生の支持を得られないのだと感じた経験でした。

 

リクナビの情報だけがすべてじゃない

そう思うから、もっと進化させていける

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 リクナビ2018では、2016年6月にオープンした就活準備サイト(インターンシップ情報などを掲載)の設計に力を入れてきました。今の学生は、「3月に説明会等の企業の採用広報活動が解禁され、6月から面接選考スタート」というスケジュールで、就職活動を進めています。このスケジュールに変わり、企業研究に費やす時間が短縮され、自分に合った・自分を活かせる企業や仕事が整理できていない学生にとっては、特に厳しいものになったと感じています。

 そこで、自分でピックアップした企業リストを改めて確認できる仕組みを作ろうと、整理機能を追加しました。企業研究した社数がある程度たまったところで、もう一度企業情報を読み「保存する」か「削除する」かを選んでもらうのです。取捨選択のプロセスを踏むことで、自分の志向に気づいてもらうのが目的です。この3月1日にグランドオープンした本サイトも、「企業を知る」「自分を知る」「学生と企業のコミュニケーションをより充実させるための負担軽減」の3本柱で、一人ひとりの学生が自分にフィットする企業に出会うための施策を強化しています。さらに、レコメンド機能をさらに進化させました。単にオススメの企業情報を掲出するだけでなく、サイト上での閲覧状況から読み取れる学生一人ひとりのその時点での困りごとに対して「もしかして、こんなことでお困りですか?」とそっと寄り添ってアドバイスさせてもらうようになっています。リクナビが少しは「ナビゲーション」できるサイトに近づいているのではないかと、今ようやく手ごたえを感じています。リクナビの起源は、1962年に発行した「企業への招待」です。それ以前の人と仕事の関係の在り方は、企業は「雇う」、労働者は「雇ってもらう」という言うなれば上下関係でした。60年代は、高度経済成長で労働力が必要になったことで、人と企業がお互いに選び・選ばれる対等な関係へと方向転換の兆しが見え始めた時代。入社後に活躍してもらうためにという視座が採用活動に組み込まれていったのもこの頃です。

「企業への招待」の扉文には、次のような言葉が載っています。

「学生が、自分に最もふさわしく、自分を伸ばすことのできる企業を選び、企業は明日の繁栄を担う人材を求める。このふたつのことが両立していくためには、企業と学生間のコミュニケーションが十分に成立していかなければならない」

 これはリクナビを開発する上で、今も変わらず大切にしている考え方、原点です。一人ひとりの入社後活躍を実現するためには、1社1社の企業と一人ひとりの学生が互いにフィットするかを、十分にすりあわせなければいけません。求人広告、ひいてはリクナビには、それが実現するようナビゲートできる存在に近づく使命があると思っています。リクナビの企画開発を担当して、5年。学生たちの人生の選択に、強く関与している重大さを年々強く実感しています。現在、リクナビに掲載されているのは、約2.7万社の企業情報。就職を希望する学生に、1つでも多くの可能性を提示しようと決めた結果、非常に多くの企業を掲示できていると思っています。一方で、これはすべて「企業等に雇われて働く」選択肢の提示にとどまっています。働き方が多様化するなか、「職人になりたい」「農業に就きたい」「フリーランスとして生きたい」という学生もいるはずですし、その思いへのナビゲーションがあってしかるべきではないかと思うのです。どこに就職するか、よりも“どう生きるか”を基点に考えていく。将来的には、そんな働き方の提案ができるようなサイトを作れたらいいなと思っています。

キャリアのターニングポイントとなった、学生からのメールを読んだとき、「就職に一度失敗したら、人生が真っ暗だと思いこんでしまうような今の風潮を何とかしたい。もっといろんな道があるんだと伝えたい」と強く思いました。リクナビの開発に携わり、その情報を届ける側にいながらも、「リクナビが持ち合わせている情報だけで、人の人生を規定すべきではない」というジレンマは常にあります。でも、その葛藤を持ち続けることで、リクナビをもっと進化させていけると考えています。

 

 自分がそうだったように、人は働くことに必ずしも常に前向きに立ち向かえる訳ではありません。だからこそ、人が働くことを選択する場面には、難しさと面白さの両面があると思っています。9年やっても、まだまだやりたい事があふれてくるこの仕事を、もっと突き詰めていきたいですね。